活動報告

教育講演

わが国における拡大スクリーニングの現状

熊本大学病院小児科 診療助手

澤田 貴彰 先生

 「拡大新生児スクリーニング」についての、明確な定義はまだないと思います。ただ、われわれは現時点で「公費で行われている新生児スクリーニング(NBS)対象疾患以外で、早期発見が重要な疾患を対象としたNBS」と位置付けています。そこにはライソゾーム病や、重症免疫不全症、脊髄性筋萎縮症などが含まれます。この様にNBS対象疾患が拡大している背景の一部として、治療法の発展、検査法の改良、そして、疾病予防の整備が考えられます。

 治療法の発展として、ライソゾーム病における酵素補充療法(ERT)の開発が挙げられます。わが国では1998年に承認されたゴーシェ病に対するイミグルセラーゼが承認されて以降、9種類のライソゾーム病に対するERTが承認されています。脊髄性筋萎縮症(SMA)では、2017年にアンチセンス核酸医薬品であるヌシネルセンナトリウムが承認されて以降、3種類の治療薬が承認されています。しかし、これらの治療薬の効果は、治療開始時期に依存します。つまり、十分な治療効果を得るためには、より早期に診断し治療を行うことが求められ、NBSは早期診断方法の一つです。

 次に、ライソゾーム病における酵素活性測定法や、重症複合免疫不全症(SCID)やSMAにおける定量PCR法など、乾燥ろ紙血を用いたスクリーニング検査の改良が行われたことにより、検査可能な疾患が拡大しました。

 そして、疾病予防の整備として、令和2年から定期接種化したロタウイルスワクチン予防接種が挙げられます。生ワクチンである同ワクチンの接種はSCID患者では禁忌となっていますが、接種時期である生後2か月頃にSCIDを診断するためには、NBSによる発症前診断が重要となります。

 拡大スクリーニングの課題の一つとして、陽性例のフォローアップ(精密検査・治療体制の整備)が挙げられます。中でもSMAは全国でもすでに数例の患者が拡大スクリーニングで発見されたことで、多くの改善すべき点が見つかってきました。SMAはSMN1遺伝子のバックアップ遺伝子であるSMN2遺伝子のコピー数が重症度に影響することが分かっています。つまり、SMN2遺伝子のコピー数が少ないほど重症と(発症時期が早く)なります。海外の報告では、NBSで発見されたSMN2遺伝子が2コピーであった新生児の大半が初診時にすでに筋緊張低下や筋力低下が現れていたと報告されています。したがって、症状の発現前に治療を行うためには、出生から治療までの期間の更なる短縮が求められます。出生から治療までの期間は、①出生からNBS陽性判明まで、②SMN2遺伝子のコピー数判明まで、そして③治療までと、大きく3つに分けられます。①の期間においては、推奨されている採血期間のうち、最も早い日齢4で採血することや、検体を速達やレターパックなどで送付することが考えられます。②の期間においてはデジタルPCR法などによるより早期にSMN遺伝子コピー数が判明する方法を導入することなどが考えられます。③の期間においては海外からの発送のために到着までに時間のかかるオナセムノゲンアベパルボベク(遺伝子治療薬)の投与前に、比較的早期に投与可能なヌシネルセンナトリウムを先行投与することなどが考えられます。ただし、本当にヌシネルセンナトリウム投与が必要かどうかの予測は困難であり、SMN2遺伝子のコピー数や症状を発症しているかどうかから、総合的に判断する必要があります。

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