活動報告

総合討論

「拡大スクリーニングの現状と課題」について討論

・中村公俊(座長:熊本大学)
・木水友一先生(大阪母子医療センター)
・羽田明先生(ちば県民保健予防財団)
・粟野宏之先生(神戸大学)
・西尾久英先生(神戸学院大学)
・濱崎考史先生(大阪公立大学)
・澤田浩武先生(宮崎大学)
・小坂仁先生(自治医科大学)
・濱田淳平先生(愛媛大学)
・澤田貴彰先生(熊本大学)

※以下、敬称略

治療までの期間短縮について

中村先生方の発表を伺って、陽性患者さんのフォローアップの期間や方法が疾患によってかなり違うことが、改めて確認できたと思います。どのように治療までの期間を短縮するか、というのが課題のひとつだと思いますが、例えばSMA(脊髄性筋萎縮症)で、SMN2が2コピーで症状がある方とない方、3コピーの方、それぞれにどのように対応していくのか。木水先生はどのようにお考えですか。

木水海外の論文を調べたところ、おおよそ3~5週くらいの治療開始時期でした。この2週間の差というのは重症例については、かなり予後の違いにつながる可能性があり、予後を改善するためには早く治療を開始しなければと思います。
日本のSMA-NBS(新生児スクリーニング)は、改善の余地はありますが、すべてのSMA児を完璧に救えるシステムではありません。長期的な予後が分からないなかで、ご家族にスピーディーに治療の決断をしていただかないといけません。早期治療を決定して重大な副作用があっても、意思決定に時間がかかり発症後の治療になったとしても、最終的に両親が納得できるような対応と説明を、医療者は求められています。
SMA-NBSが各自治体に広がっていくと、陽性者対応やフォローアップ体制への不安が大きくなると懸念されるので、研究会で情報共有するのは非常に重要だと思います。また、治療方針やフォローアップ案を作成して共有するのが重要だと思っています。
今回、私は3コピーの症例を経験したのですが、2コピーと全く変わらない対応をしています。2コピー、3コピーに関しては、特に差を作る必要はないのではと個人的には思っています。

中村新生児スクリーニングによって得られる恩恵はもちろんありますが、全員が発症前に治療できるわけではありません。いかに治療開始までを短縮して、予後をよくするかというのは疾患ごとに考えていく必要があると思いました。

羽田SMN2のコピー数をろ紙血から検出する場合、精度はどうなるでしょうか。

粟野西尾先生が開発された方法があったと思いますが、それはいかがでしょう。

西尾DNAをろ紙から抽出し、デジタルPCR法で測定するとうまくいくようです。

澤田貴彰ろ紙血からDNAを抽出したものをデジタルPCR法で測定したところ、MLPA法で確認したものと全く同じコピー数だったので、両者は同様の精度だと私たちは考えています。

中村デジタルPCR法を使うと、検体のSMN2のコピー数をSMN1のコピー数と同時に測定するということが技術的に可能です。

両親の意思決定について

中村濱崎先生、ご両親の意思決定について、どのように進めたらよいでしょうか。

濱崎ご両親の意思決定に時間がかかる理由として、治療法の選択肢が増えたこと、エビデンスが揃っていないことが大きいと思います。医療者側もエビデンスを積み重ねることが求められています。全国で症例を積み重ねて、共有することが大事だと思います。

中村全国に広がると、慣れていない施設で精密検査をすることもあると思うので、必要なガイドラインが固まってくるとよいと思います。澤田浩武先生、ファブリー病が見つかり、治療開始まで期間がある中で、どのように意思決定についてお話しされていますか?

澤田浩武ファブリー病は他の疾患に比べるとある程度時間的猶予があります。実際に臨床をされている先生方にお任せしていますが、比較的早い時期に遺伝カウンセリングに介入していただきます。遺伝カウンセラーをうまく活用することも重要だと思います。ポンペ病やSMAの場合は一刻を争うような状況ですので、治療方針を選択する時には、医師主導にならざるを得ないのではと、今日のお話を聞いて感じました。

中村最初にSMN2のコピー数が分かるというのは、スクリーニングの中でも大事な情報だと思います。九州や四国など一緒にスクリーニングをする所では、ろ紙血を送ってもらえれば、すぐにSMN2のコピー数を測れるようにしたいと思っています。
木水先生、SMA-NBSの治療・フォローアップ指針を作る上で、どのような情報が必要ですか。

木水地域で遺伝カウンセリングなどを手厚く行い、盤石な体制を整えられるのかということを知りたいです。難しい点もあると思うので、中央でサポートできる体制ができれば、安心感が増えると思います。

体制づくりについて

中村小坂先生、精密検査が必要な時の体制づくりで困ることはありますか。

小坂SMAと重症免疫不全の担当の自治医大と獨協医大には遺伝カウンセリング室があり、遺伝カウンセリングと共に検査ができるシステムです。もうひとつの精密検査施設である済生会宇都宮病院では重症免疫不全だけの担当なので、あまり問題になりません。検査施設の衛生事業団では疑わしい症例があった時点ですぐにメールカンファレンスで患者さんを特定し、数日以内に受診していただく予定です。

中村地域でコミュニケーションをきちんととって、必要なことがあれば助けにいく体制づくりということですね。木水先生、指針作りの材料はこれでよろしいでしょうか。

木水大変勉強になりました。海外の症例と合わせて作っていけるのではないかという感触を得ています。皆様の豊富な経験を伺い、しっかりしたものを作れたらと思っています。また、SMAの担当の方の連絡先を教えていただき、連絡をとりながら作っていきたいと思いますのでご協力ください。

中村今井(耕輔)先生から、学会を通じたサポート体制について、「免疫不全学会では学会のホームページで症例相談ページを作り連携施設指定をしていますが、それを神経でもやっていただけると安心できるのではと思います」とコメントがありました。

公費助成について

中村これから拡大スクリーニングを進めていく地域もあると思います。濱崎先生、公費助成についての取り組みで、公費について何かお考えはございますか。

濱崎地方の自治体では国の意向を重視する傾向があるので、今回、熊本県・熊本市が独自に公費助成をされたというのは大きいです。聴覚スクリーニングのように最終的に公費になった例もあり、拡大スクリーニングでも自治体が今までの考え方を変えていただけるように、みんなで力を合わせるのが一番よいと思います。

中村笹原先生は東北全体でコミュニケーションをとりながら進めていらっしゃいますが、公費化についてはいかがですか。

笹原県の財政状況など現実的な所もあると思いますが、個人的には全国の無料化という最終目標に向けて、患者さんベースで「スクリーニングをやることでこんなに良くなりましたよ」という実績を作ることによって、世論が変わってくると思います。そこが大事なベースラインになるのではと思っています。

中村濱田先生のところはいかがですか。

濱田愛媛も受検率が上がってきたのですが、まだ一例も診断確定例がありません。熊本のようにSMAのお子さんを助けられたというようなことがあるとインパクトがあって、県などが動き出すのではと思います。市町村レベルで検討したいと言われているところはあるのですが、県全体を動かすには実績の提示が必須だと考えています。

中村熊本県と熊本市で4月から半額助成が始まっていますが、公費助成を受けた拡大スクリーニングがこのように役立っていることをきちんと示していかなければいけないと感じています。
説明と同意については、すごく難しい話で、どこまでを遺伝カウンセリングでするのかということも考えていかなければいけないと思います。羽田先生、その点について最後にまとめのコメントをいただけますか。

羽田遺伝カウンセリングは方針を決めるというよりも両親が十分理解できることが大きな目標なので、その先の治療が大きく変わるということはまずないのではと思っています。遺伝カウンセリングには必ず当事者である両親に揃って来てもらい、それ以外の方は外してもらうということを基本にしています。ケースケースによって全部違うと考えることが間違いないと思います。

中村よいまとめをありがとうございます。今日は先生方から各地域の現状について詳しくお話しいただいて、私も勉強になりました。ありがとうございました。

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