活動報告

岡山医療センター 古城 真秀子

教育講演2

ムコ多糖症の診断と治療~早期治療の重要性~

岡山医療センター

古城 真秀子

 今日は、まだスクリーニングの対象疾患ではないですが、早く見つけてあげたい症例を経験しましたので、ご報告させていただきます。ムコ多糖症Ⅵ型というかなりレアな疾患です。今日は顔写真を出しますが、診断に顔つきが役立つからというご両親のご希望です。Ⅵ型はライソゾーム病で、進行性の先天代謝異常症で、日本では10名の患者さんが診断されています。ナグラザイムという酵素製剤が発売され、酵素補充療法を週1回行っています。この症例はきょうだい例で、お兄さんは早く診断されましたが、酵素補充療法を行えていない期間がありました。妹さんは出生時の臍帯血で診断でき、生後6週目という早い時期から酵素補充療法をしました。お二人を比較し、お話ししたいと思います。

 今、ライソゾーム病の薬はいろいろあり、治療法のある病気は早く見つけてあげたいと思っています。このⅥ型の患者さんと出会うことで、私も酵素補充療法というものと出会うことができました。2006年の山陽新聞で、岡山に患者さんがいて、アメリカで発売された薬がまだ日本には入ってきていないので、個人輸入をして治療することを考えているということを知りました。そのすぐ後に、この患者さんの個人輸入の薬の治療をできないかという話があり、6カ月後に1回目の酵素補充療法をすることができました。
 個人輸入といっても1回に100万円くらいかかり、それを毎週、しかも自由診療だから一切保険はきかない治療を行わないといけなかったので、最初は募金活動をすることになり、全国的に新聞やニュースに出ました。半年ぐらいすると、厚労省から承認され、今は保険診療で行っています。

 ライソゾームというのは細胞の中のゴミ処理場としての役割があり、このライソゾーム酵素がないと分解されないものがライソゾームにたまります。ムコ多糖はかなり長いもので、つながってできていて、そのつながり方によって7種類あり、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸、ヘパリンなどが、結びつき方によって分類されます。このムコ多糖症のⅠ型からⅨ型まで、酵素が全部違うのでたまるものも違うし、症状もちょっとずつ違います。Ⅰ型とⅡ型とⅥ型が顔つきが似ているのでよく比較され、同じムコ多糖症とひとくくりになっていますが、欠損酵素が違うためちょっとずつ症状が違い、治療する酵素も違ってきます。

 本人のお顔ですが、教科書的には特異顔貌といわれます。これは酵素を入れる前の状態ですが、頭が大きくて、唇が分厚くて、いつも舌が出ている感じです。手も関節拘縮がありますので、いつもグーをしている状態で、短くて太い指になります。以前の古い教科書では、ムコ多糖症の顔つきはガーゴイル様顔貌と書いてありました。ガーゴイルというのはヨーロッパの建築様式の雨どいについている飾りのことで、ちょっとグロテスクな顔で、目が大きくて、口も裂けているように大きいです。こういう動物や空想のものを人にたとえるのはいかがなものかということで、ガーゴイル様顔貌というのは言わないようにしましょうということになりました。
 お兄さんは今16歳で高校1年生。ちょうど思春期ですが、2歳の時に少し言葉が遅れているんじゃないかと、お父さんとお母さんが小児科に連れて行かれたそうです。3歳児検診の時にいわゆる顔つきが気になるし、指も伸びないし、角膜混濁もあるということで、岡山大学で精密検査を受け、診断がつきました。3歳3カ月で診断はついたのですが、最初に新聞に載った5歳6カ月まで、治療ができませんでした。

 6歳下の妹さんは現在10歳になりますが、遺伝カウンセリングを受け、胎児診断はしないと決められていましたので、出生時の臍帯血で診断しています。生まれた時に異所性蒙古斑がかなりあり、残念ながらムコ多糖症でした。治療を始める前にいろんな検査をしないといけないので少し時間がかかりましたが、生後6週目よりERTを開始しました。
 お兄さんも治療を始めて去年で10年経ったのですが、手の骨と背骨を横から見ると、だいぶ進行しているのではないかと思います。指は伸びていて、背骨もだいぶ四角っぽくなってきていると思うので、少しは骨に効果があったのかなと思っています。
 妹さんですが、残念ながら手の骨はほぼ一緒で、骨にはあまり効いていないようです。背骨もお兄さんほどではないですが、だいぶまるくなっています。顔つきはお兄さんのほうが、顔写真を見ても3歳3カ月と5歳6カ月の間にだいぶ進行した跡がみられます。10年経ちましたが、唇が分厚いですし、舌はだいぶ引っ込むようにはなったのですが、いつも口が開いている感じで、角膜混濁があり、乱視があるので、メガネをしています。妹さんのほうは生後6週から始めた割には角膜混濁もだいぶ進行していまして、メガネが必要になるかと思います。お顔はちょっと唇が分厚くなってきたような印象はあるのですが、この顔写真だけでムコ多糖症だということは言えないのではと思っています。

 身長曲線ですが、残念ながら身長を伸ばしてあげることはできていません。お兄さんは思春期がきてちょっと伸びたのですが、141㎝に到達するかしないかです。この2人は先ほどお見せしたようなレントゲン写真の手ですので、骨年齢を計算するということが不可能に近いです。妹さんはこれから思春期を迎えるので、興味深い対応が出るといいなと思っているのですが、身長は残念な結果に終わっています。身長のこともあり、酵素補充だけでは、関節症状にはいいけれども骨にあまり効いていないと思っていたので、去年から共同治験でペントサンを皮下注射しています。
 臨床症状の比較としては、呼吸器症状は、妹さんは今まで特段トラブルはありません。お兄さんのほうも酵素補充の前は、いびきはすごいし、声もがらがら声でしたが、今はだいぶよくなりました。顔つきは、妹は正常と書いているけれども、ちょっと疑問です。心臓のほうは進行していません。角膜には全然効いていないようです。耳鼻科的なもので、お兄さんは言葉の遅れの原因だったと思われる難聴がありましたが、今は正常範囲です。中耳炎を起こすこともほとんどなくなりました。妹さんは、聴力は正常で、中耳炎を起こしたこともありません。関節拘縮は、妹さんも指は伸びきらないですが、お兄さんには鷲手が見られます。
 最後になりますが、酵素補充療法ができるようになり、できるだけ早く治療するために、早く見つけてあげないといけないということで、ライソゾーム病の新生児スクリーニングが望まれると思っています。Ⅵ型は中枢神経の症状はないのですが、ムコ多糖症のⅠ型やⅡ型のように中枢神経に症状が出る疾患に効果が出るような新薬の開発が望まれます。

質問:妹さんは生後6カ月目から酵素を投与されていますが、角膜混濁の発症を遅らせたという印象はありますか?
回答:発症は遅らせているのですが、だいぶ、分かってしまうような状態です。

質問:ペントサンは印象としては効いているでしょうか?
回答:第2相なのでまだ分かりませんが、いびきが減ったりしているので、ちょっと効果はあるのかなという印象は受けています。

質問:酵素補充治療で、臓器によって効く、効かない、というのがありますよね。Ⅵ型で、骨に効きにくい、心臓や呼吸器、耳に効きやすいというのは、どのように説明されているのでしょうか。
回答:内部組織で血流が豊富なところ、肝臓や脾臓などは、効果が出やすいし、早く効きますが、一度効果があると、それ以上はよくならないようです。骨というのは血流がよくないですし、角膜もたぶんそうなので、排泄がうまくいかないのかなと思っています。
Ⅵ型で、せっかく思春期がきたのに身長を伸ばしてあげられなかったのが残念です。酵素も高い薬なので、体重あたり1ミリグラムというような縛りがあって、乳児期の身長が伸びる時や思春期は必要量がもうちょっといるのではないかと思っています。ウロン酸が下がりきらないので、ウロン酸の値を見て、投与量を少し増やしてもいいような使い方ができれば、身長をもうちょっと伸ばしてあげられたかなと思っています。

質問:特異顔貌ですが、お兄さんに比べると妹さんはだいぶ抑えられているということですが、何か比較できるものはありますか。
回答:ここ1~2年で唇が厚くなってきた印象があるので、思春期前だからということも関係しているのかなと思います。

質問:関節可動域のデータが出ていなかったようですが?
回答:関節については、妹さんは全然問題がないデータです。ただ、関節可動域の検査は難しく、本人たちも小さい時は嫌がるから、不思議なデータが出たりよくしていました。妹さんは上まで手を上げることができて、お兄さんは肩よりちょっと上までしか上がらないです。妹さんは自転車に乗れるのですが、お兄さんは乗れないです。やはり、股関節が硬いから、ペダルを回すことができない。日常生活での差というのはすごくあります。運動系の能力という意味でもだいぶ差があります。数字にできない部分で、日常生活での差というのはだいぶあるのかなと思います。

質問:ADLの中で、トイレとかはどうですか?
回答:ADLというか、トイレや排泄は普通にできています。手は届くのだけれど、たぶん、便座の高さを低めにしていると思います。

質問:治療はいつごろから始めたほうがよいと考えますか。また、途中から容量依存があるかもしれない、というお話でしたが、どの時期に増やしたほうがよいと思われますか。
回答:すごく難しいですが、乳児期や1歳まで、一番必要なのはたぶん1歳までと思春期ですね。それから小学校に上がるまでですね。この時期は少しいるのかなと思っています。当てになるのが、尿中のウロン酸ぐらいしかないので、データを示しづらいのですが。

質問:成長曲線は非常に貴重なデータだと思いますが、最初、お兄さんも妹さんも高かったでしょうか、高身長みたいな結果だったと思うのですが。
回答:そうですね。乳児期は過成長、いろんなものがたまるせいじゃないかと思っています。お兄さんの場合、2歳くらいまで、妹さんは1歳まで。この時期はいろんなものが蓄積してしまっているのではないかと思っています。

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